現代病草紙−皮膚科の診療室より−



皮膚癌はどんなものですか?


当然のことですが皮膚にもいろいろな癌が生じます。以前「腫瘍は悪いものですか?」

(平成十二年九月号)の中で「癌前駆症」(がんぜんくしょう)(悪性ではないけれど、

将来癌化するか、しやすい病変)と「表皮内癌」(癌が表皮内に留まっている状態)に

ついて大まかに説明しました。



 最近注目されているのが、紫外線による癌前駆症です。長い間紫外線を浴びてできる

シミが、時に癌前駆症あるいは癌化してしまうのです。代表的な疾患名は「老人性

角化症」あるいは「日光角化症」とも呼ばれています。



 表皮内癌は、表皮に癌細胞が限局していますから、転移などの困った症状は

とりあえずありません。「ボーエン病」や「ページェット病」と呼ばれます。



 ページェット病は、乳房に生じる場合(乳房ページェット病)と、主に外陰部

などに生じる場合(乳房外ページェット病)に大別されています。最初はただの

赤みで、湿疹と間違うことが多いのですが、いろいろな治療をしてもなかなか

治りません。



 このように癌前駆症や表皮内癌は治りにくく、そして少しずつ確実に大きく

なってくることを是非覚えておいてください。それに対してほくろのような

良性腫瘍は生涯無くなりはしませんが、原則的には大きくなりません。これが

癌と良性腫瘍との大きな違いです。



 最も代表的な皮膚癌は「有棘細胞癌」と呼ばれるものです。その多くは、

先立つ皮膚病変があり、それが長い時間をかけて癌化します。例えば、熱傷瘢痕、

慢性放射線皮膚炎、前述の老人性角化症やボーエン病、長期にわたって日光照射

を受けた皮膚などです。これは表皮の有棘細胞が癌化したものです。ほっておく

と内臓の癌と同じように転移して、死に至ります。



 癌に近い種類の「基底細胞上皮腫」は、表皮の基底細胞から生じます。臨床は

黒褐色の小結節で、特に顔面に好発します。転移は滅多にありませんが、深く

浸透して大変な状態になることもあります。



 恐ろしいのは、表皮にある色素細胞が悪性化した「悪性黒色腫(メラノーマ)」

です。よく「ほくろの癌」と呼ばれています。現在、いくつかの種類が知られて

いますが、特に足の裏にできたほくろ(多くは黒色斑)には充分注意してください。

足の裏は刺激が多く、癌化しやすいと推定されています。



 足の裏に、黒色が濃くて、大きさが6ミリ以上のほくろがあったら速やかに皮膚科

専門医を受診してください。すぐに癌になることはありませんが、日本人に非常に

多く、最近急増している癌の一つです。さらにこの悪性黒色腫は、皮膚の癌の中では

最も怖いものの一つとされています。



 その他稀ですが、汗腺や毛包の癌もあります。



 つまり、皮膚のあらゆる部分が癌化する可能性があるのです。



 しかし、安心してください。皮膚は目で見えるところなので、訓練された皮膚科

専門医はそれらを瞬時に診断できます。念のため皮膚を一部採取する検査(皮膚

生検)をして確認することがありますが、見て診断できる(視診)ことが、皮膚科医

にとってとても大切な基本的能力なのです。



★悪性黒色腫を診断する際のポイント

 ・痒くないか。

 ・赤くなったり、急に大きくなったりしないか。

 ・辺縁の不整、色調の変化、崩れや出血はないか。



 もし、このようなことがあったら、必ず皮膚科専門医に受診しなければなりません。



 胃癌などと同じように、皮膚癌も転移する前にきちんと取り去ればほとんど心配ない

病気です。ましてや目で見える皮膚にある病変ですから、その診断は多くの場合容易

です。もちろん加齢によってその発生頻度は高まりますが。