現代病草紙−皮膚科の診療室より−
 
 

水虫は本当に治るの? 

      

 
  昔から「水虫が治ったらノーベル賞ものだ」と言われています。それほど

水虫は、なかなか治らない、やっかいな皮膚病だと思われてきたのでは

ないでしょうか?


では「水虫」とは何か、ご存じですか?


皮膚などに感染する病原体には、大きく分けて、ウイルス、細菌、

真菌などがあります。その違いについてはいずれ説明する機会があると

思いますが、そのなかで<真菌>というものが水虫の原因なのです。


真菌は俗称「かび」のことです。梅雨時に、放っておいた食べ物や、

お風呂場の壁などによく発生しますから、なんとなくお分かりになると思います。

そのかびのある種のものが皮膚に感染(寄生)する場合があり、

それが病原体であった時、この状態を<皮膚感染症>と言います。


つまり水虫は、真菌による皮膚感染症なのです。正式名は<白癬菌>という

かびで、皮膚の中の角質という蛋白を食べて生きていきます。


ところで、水虫はかゆい、と思っていませんか?しかし実際は、自覚症状のない

ことが多く、治療する機会がないままに少しずつ進行してしまいます。最初は片側

の足だけについていたかびが、いつの間にかもう一方の足にも感染し、ついには

爪(角質が特殊に分化したもの)にまではいっていきます。すると爪は厚くなり、

白濁した状態になってきます。


さっそく、ご自分の足を観察してみてください。特に、お年寄りにはこの爪の変化が

よく観察されます。動けない、寝たきりのご老人だと、この状態がさらに顕著です。


ご家族の誰かが水虫になると、知らず知らずのうちに他の家族に感染してしまう

ことがよくあります。畳やバスマットにたくさん落ちてしまった水虫の原因のかびが、

家族などまわりの人達に水虫を伝染してしまうのです。どうか十分に気をつけて

下さい。水虫のかびが股につくと有名な「いんきんたむし」になります。顔や

首すじ、体部についたときには「ぜにたむし」、頭だと「しらくも」などと呼ばれる

病変となります。昔、よく聞いたことがあるでしょう?


喜ばしいことに最近、水虫のかびを退治する有効な治療薬がたくさん開発されて

きました。これらの薬は、一日一回塗けるだけで、十分有効なのです。売薬等では

よく、お風呂上がりに塗けるように指示されますが、私は朝一回、靴下を

包帯代わりにして塗けるように申し上げています。


これには私自身の体験があるのです。伝染するはずはないと思いこんでいた私も、

ある時水虫にかかってしまい、さっそくノウハウ通り、薬をお風呂上がりに

塗けました。すると、床はべとべとするし、布団も汚してしまい、往生しました。

そこであれこれ工夫した結果、毎朝、趾間や足底にしっかり薬を塗けて

靴下を履くことが最も良いことに気づいたのです。


私の水虫はほどなく、見事に完治しました。


残念ながらノーベル賞とは無縁でしたが、最近の水虫の薬はよく効くことは確か

です。ただし、良くなったと思ってもしばらく続けて塗けることをお勧めします。

なぜならば、かびは症状が消えてもなお、残っていることが多いからです。

また、新たに感染する可能性も考えなくてはいけません。

爪に関しても、数年前からとてもよく効く内服薬が発売されました。

毎日飲む方法と、一週間飲んで三週間休む(パルス療法)方法があります。

どちらも極めて有効です。


水虫の方は、ぜひ皮膚科専門医を受診してみてください。昔のきれいな

足と爪にもどしましょう。