皮膚病の多くは伝染すると思う方が多く、「これはうつりますか?」という質問を
よく受けます。うつるかうつらないか、皮膚科医は患者さんの皮膚病変に四六時中触って
いるのです、「ああ、大丈夫なんだ」と理解してくださいませんか。
水ぼうそう(水痘)や三日はしか(風疹)などは、伝染する代表的な皮膚疾患ですが、
一度罹ると免疫ができて、二度と同じ病気にはなりません。この免疫を利用して、何種類
かの伝染性疾患に予防接種があることは、よくご存知ですね。
うつる皮膚病の原因には、ウイルス、細菌、真菌、その他の微生物などの病原菌が挙げ
られます。水痘や風疹はウイルスで起こる代表的な伝染性疾患ですが、以前お話した
単純性ヘルペスも伝染します。
学童に多いのですが、イボもウイルスで伝染する皮膚病です。イボは、疣贅(ゆうぜい=
医学用語でイボのこと)と水イボ(伝染性軟属腫)などがあり、それぞれ違った種類の
ウイルスが原因です。
私はかつて、延べ三年間の疣贅患者、約二千二百名の実態を調べたことがあります。
その結果、幼児・学童の足の裏の疣贅が最も多いことがわかりました。恐らく、スイミングが
原因ではないかと思っています。プールで足の裏に小さな傷ができ、プールからあがった時に
足を拭くマットに傷のウイルスがつき、そのマットなどから伝染につながるのではないかと
推測しています。
同じように、水イボも学童に多く、プールでうつることが指摘されています。今のところ
水イボの患者はプールに入ることを禁止されていますが、疣贅では特に注意されていません。
水イボは、白っぽい光沢のある半球状の丘疹で、数個から数十個、あるいは全身に多数
生じます。丘疹の中央が陥凹(かんおう)していることが特徴です。
また「とびひ(伝染性膿痂疹)も学童に多く、圧倒的に夏、流行ります。これは細菌に
よるもので、虫刺されや湿疹などの痒い状態を掻いているうちに起こることが多いようです。
水ぶくれと、カサブタのついたジクジクしたビラン面をつくります。黄色ブドウ球菌や
溶血性連鎖球菌などが原因菌と言われています。
水イボやとびひは、アトピー性皮膚炎のお子さんにできやすいことに注意してください。
アトピー性皮膚炎では、皮膚の免疫能力が低下しているという指摘があります。
夏に多い「水虫」は、真菌によって伝染する皮膚疾患の代表的なものです。フットケア
研究会のデータによると、現在日本ではおよそ千三百〜千六百万人の水虫患者がいると
推測されています。昨年七月号でもお話しましたように、多くの人が「水虫は痒い」と
思っているようですが、その先入観は捨ててください。実際は、痒くない水虫も多いのです。
そのため治療が遅れ、水虫患者がさらに増える結果となっているように感じます。
ところで伝染性疾患が、免疫を作って二度と罹らないものと、水イボやとびひのように
何度も罹るものとがあるのは何故か、不思議に思いませんか。
体内に大量に病原菌が入ると免疫がしっかりできて、皮膚表面だけの場合はなかなか免疫が
できないと、理解しておいていただきたいと思います。
皮膚科医の体験として、みなさんが思っているほど、うつる皮膚病は少ないのです。
しかし、伝染力の強い皮膚疾患を診た時、皮膚科医は必ずきちんと説明し、他の人に迷惑を
かけない対処の仕方をお話するはずです。どうかいたずらに恐がったり、隠したり、恥ずかし
がったりせずに、気軽に皮膚科医の診察を受けてください。