「ステロイドは怖い」という言葉が、私たち皮膚科医が知らないうちに広まって、いつの
間にか、いかにも真実味を帯びて一人歩きしてしまっています。
「ステロイド外用剤をつけると副作用がある」
「止めるとリバウンドが来る」・・・・等々。
実際、「この薬にはステロイドが入っていますか」と訊ねる患者さんがかなり多くなり、
「ステロイド拒否症」なる言葉まで生まれました。
何故こんな事態になったのでしょうか。
ステロイド外用剤が最も関係する疾患はアトピー性皮膚炎です。そしてこの皮膚病は
なかなか完治しません。特に成人型のアトピー性皮膚炎では、難治性の皮膚病変とともに、
赤ら顔になることなどが大きな問題になっています。
そこで現れたのが、まことしやかな民間療法の台頭でした。なかなか治らないけれど
命には別状ないアトピー性皮膚炎は、民間療法には、非常に都合のいいターゲットだったの
です。金沢大学皮膚科の竹原和彦教授は、これを「アトピービジネス」と名付け、その実態
を詳しく調べています。
竹原教授によると、「アトピービジネス」の特徴を、
@アトピー性皮膚炎は一生治らない。
Aステロイド外用剤では良くならない。
B特殊な治療で治せる。
C良くならないのは以前のステロイド外用剤のせい。
というストーリーを掲げて、高額な民間療法が成立していると説明しています。
つまり民間療法では、アトピー性皮膚炎でステロイド外用剤を使用することは“悪”
なのです。このアトピービジネスの餌食になった人は厖大な数になっており、高額な
治療費を払っています。これは、今まで患者さんをしっかりとフォローしなかった
皮膚科医にも責任があると、私は思っています。
ごく最近のことですが、アトピー性皮膚炎の治療ガイドラインが概ねできあがりま
した。アトピー性皮膚炎を専門としている皮膚科医が一致団結して、本当にステロイド
は怖いのかどうか、いろいろな角度から調べたのです。
その結果、現段階におけるアトピー性皮膚炎の治療薬の第一選択は、やはりステロ
イド外用剤であると再認識されました。つまり、アトピー性皮膚炎の治療はステロイド
外用剤をいかに的確、かつ合理的に使用するかが大切なのです。
ステロイド外用剤は、その強さによって五段階に分類されています。症状や部位
によって、ステロイド外用剤を上手く使用することが求められます。具体的に言うと、
重篤な皮膚症状では強いステロイド外用剤を短期間使用し、早く皮膚症状を軽くして、
その後、弱いステロイド外用剤、あるいは非ステロイド系の外用剤(主に保湿剤など)に
変更します。これは重要なことです。つまり炎症反応の強い時には積極的にステロイド
を使用するとともに、皮膚症状が軽減したなら速やかに他剤でコントロールすることが
肝要なのです。
さらに最近では、赤ら顔には新しく開発された免疫抑制剤軟膏がきわめて有効で
あることがわかり、ステロイド外用剤に替わる新しい治療もいろいろ出てきています。
皮膚科医は常にアトピー性皮膚炎の治療に真剣に取り組んでいます。また、
ステロイド外用剤に関しても正しい判断、正しい選択を心がけています。
ステロイド外用剤は決して怖い薬ではありません。いかに正しく使用するかが、
具体的に求められているのです。