ジ−パン皮膚炎?


 数年前より臍部に限局した慢性湿疹様病変を、時に診る機会があった。しかし特に意識することもなく、
ステロイド軟膏を投与していただけであった。
 今夏、8月3日からの4日間に、ほぼ同様の症状をもった21歳から29歳の女性4名が偶然にも続けて来院した。前述した臍部の湿疹様病変の患者である。その臨床は、臍部を中心にして境界は不鮮明、軽く浸潤を触れる紅斑で、時に色素沈着を伴う。さらに掻破のためであろうか、丘疹が集簇あるいは散発している。話を聞いてみると夏期に発疹するという。
 何気なく1例目を診、翌日2例目の症例を診た時、はたと思いついた。患者さんは肌着を着ないで、ジ−パンを履いているではないか! そしてベルトのバックルが臍部に当たることに気付いた。「ジ−パンを履かない時はどうですか」、という問いに、「そういえば、治っていますね」との返答。ならばこの発疹の原因は、その詳細は不明にしても、おそらくジ−パンを履くことだと得心したのだった。そういえば前日の1例目の患者さんもジ−パンを着用していたななどと思っていたところ、その2日後2名の全く同様症状のジ−パン女性が来院した。いままで何気なく診ていたけれど、今度は自信をもって診察・治療したことはいうまでもない。そのジ−パン姿に印象が強かったので、私は「ジ−パン皮膚炎」と命名した。8月下旬にはもう二例が診察に訪れた。
 その特徴は、1)臍部に限局した慢性湿疹様の病変である。2)女性に多い。3)夏期に好発する。4)下着を着ないでジ−パンを履いている時に発疹し、ジ−パンの着用を止めると治ることが多い。4)おおむねベルトのバックルが臍部に当たる、などである。
 この中の1例に金属パッチテストを行ったところ、硫酸銅と硫酸ニッケルで陽性だった。その意味はまだよく分からない。おそらくベルトのバックルによる一次刺激性あるいはアレルギ−性の接触性皮膚炎が考えられるのだが・・・・・。
 こんなことも今まで知らずにいたことが恥ずかしくてならない。多くの先生方はこの発疹を熟知されておられるはずである。また、日常診療のなかでこうした経験は多いように思われる。
 しかしながら今回のふとしたささやかな発見は、私にとっては皮膚科医冥利につき、ますます“発疹をよく診ること”を教えてくれたように思う。

追記:ジ−パンは、金属の鋲でとめてあることがほとんどで、その金属が原因かもしれないとのご意見をいただいた。しかし実際にはその鋲は小さく、私見でしかないが、今回のような皮疹を生じさせる可能性は少ないように思われる。