−メリットもデメリットもあるけれども−

ホームページ開設の意義

 

はじめに

  インターネットは、出会うはずのない人と人、あるいは会社・医院などを結びつけるまったく新しい媒体である。そして今や、その情報手段は、ますます重要性を増してきているように思われる。Eメールによる情報伝達は、私たち多くの者にとってごく日常的なものになってきた。また、ホームページは私たちに瞬時に膨大な情報やさまざまな手段を与えてくれるようになった。

  1997年夏、私の医院は開院10周年を迎えた。その記念事業として私の医院のホームページ開設に着手した。その際ホームページでただ医院情報や皮膚科情報を提示するだけでなく、皮膚科にどのような要望や印象をもっているかを調べる目的で、同時にEメールを通じて質問を受け付け、返答することも試みた。

  1997年7月のホームページ開設からおよそ2年半の2000年1月にはアクセス件数が20,000件を超え、質問件数も約400件となった。一つの区切りの時期とも思われたので、送られてきた質問事項をまとめる試みを行った。さらにその成績を踏まえて、ホームページ開設における意義を検証してみたい。

私の医院のホームページに寄せられた質問事項のまとめについて

  その具体的な数値の詳細は省くが、寄せられた質問事項(合計404件)をまとめた結果の概要を示すことからこの話題を始めたい。

  受診回数に関してはほとんど1回(73.1%)であったが、返答に疑問などがあると2回以上質問する人も比較的多かった(21.7%)。

  質問は質問者本人に関することがほとんどであった(74.9%)。次いで子供のことを聞くことが多く(11.7%)、合わせて86.6%を占めた。

  年齢分布では、不明の多さ(32.8%)を割り引いても20歳代および30歳代に集中していた(合計60.4%)。40歳代を超すと極端に少なくなる(3.4%)ことからも、現在のインターネットを自在に利用できる年齢層を反映していると思われる。

  男女比でも、女性が約6割(60.7%)であり、女性の質問が男性に比べて多い傾向がみられた。

  地域に関しては、北海道から九州まで全国各地から満遍なく質問が寄せられたが、やはり関東が多かった。しかし地元の群馬は16件しかなく、意外な結果と私には思われた。とくに私の医院を受診している患者さんからがごくわずかの連絡しかなかった。おそらく受診中に話すかまたは電話など直接的な対話を選択するのであろうと推察した。あるいはプライバシーの問題から地元を避けている可能性も十分に考えられる。

  遠方の海外からが12件(アメリカ7、オーストラリア2、イギリス、南米、中国各1)あったことも意外なことであった。

  疾患別では、アトピー性皮膚炎を含む湿疹・皮膚炎群がもっとも多く、感染性皮膚疾患さらに腫瘍が次いだ。それらの疾患群で79.0%を占めた。皮膚疾患の頻度・治療の必要性などから考えて、妥当であろう。

  質問の罹患部位は目に触れる機会の多い顔面がもっとも多かった(23.2%)。次いで全身(17.9%)、手足(17.2%)が続いた。

  相談内容に関しては、以下のごとくさまざまな意見を受け取った。私たち皮膚科医にとって重要なことと思われるので多い順に列記する。

疾患に関しては、1)疾患についての詳しい説明を希望する 59件、2)予防・日常生活に関する指導を希望する 36件、3)感染・遺伝などの患者以外の周囲の人に及ぼす影響を教えてほしい。 19件、4)診断名を教えてほしい 16件、5)告知されている疾患名は正しいか教えてほしい 8件などであった。

  治療に関しては、1)当該疾患にはどのような治療法があるのか 88件、2)現在受けている治療法は正しいか 53件、3)治療を受けるべきか、放置しておいてよいものかどうか 36件、4)投与されている薬の作用・副作用などの情報を希望する 31件、5)治療を受けたいので医療施設を教えてほしい 28件であった。

  以上が、質問事項のおおまかな概要である。

ホームページ開設のデメリット

  ホームページ開設から質問のまとめなどを通して、まずホームページ開設のデメリットから考えてみたい。

  最大の難関は、ホームページを立ち上げるというかなりたいへんな作業である。この点に関しては、私の医院の看護学生の1人が以前の仕事がコンピューター関係であったことが幸運であった。彼女は、私の着想・意見を聞いてほぼ満足できるホームページを短期間に開設してくれた。コンピューターの知識の浅い人では、その開設には相当の時間・労力を必要とすることが想像される。業者に頼むことも可能であるが、意を尽くせないばかりか、なおその作業の単価は高価であると聞く。

  次に、ホームページの内容に関してであるが、常に新しい内容を更新していかなければならない義務を負うことになる。その対象がおおむね一般の人たちを想定しているので、なおさらのこと、その内容の是非が問われてくる。私の場合は、一般向け雑誌に書いている皮膚科情報などを少しずつ掲載することなどで現在のところ対処している。その際、私の医院ではホームページを管理する係が2名いて、随時ホームページに原稿を書く作業を担っている。それも想像以上にたいへんな作業となっている。

  最初質問が来たころには、嬉しさがあった。しかしその後、多いときには1日5件以上の質問があることや、また返答に窮する質問にも接するに及び、最近はやや当惑しているといえる状況にある。実際、こうした返事を書くということも苦痛を伴う作業の1つになってきているのである。

  さらに、質問以外の膨大な量のメールがいろいろなところから来るようになり、これもホームページ開設の大きな欠点と思われる。私の医院では、別の2名の職員がメールに携わっており、毎日メールの点検をし、必要と思われるメールをプリントアウト後私たちに提示し、その後、田村多繪子医師や私の返答のメールを打ってもらっている。ホームページ開設後、必要のない仕事量がかなり増加したという印象が拭えない。

  さらに、インターネットの性格上一方的なメールであることが多く、意思の疎通を図ることがむずかしい側面がある。面識がないこと、あるいは対面する必要がないことをいいことにして、非常識と思われるメールも散見された。その一例として、質問に一生懸命返事を書いても、それに対するお礼のメールはわずか15%程度でしかなく、現在のところEメールは通常の手紙などの情報伝達手段とは意思の疎通などに関して大きく異なっているように感じられる。

ホームページ開設のメリット

  デメリットをまず述べたが、しかしメリットがあるからこそまだ私の医院のホームページが続いていることをあえて強調したい。

  私たち医師・看護婦そして医療スタッフは知らず知らずのうちに診療や治療に関して正当化、そして固定化しがちな、やや危険な世界にいるのではないかと思わざるをえない。寄せられた質問には、そういった事実を的確に提示してくれたように思われる。

  皮膚科医は、その保険点数の低さゆえに、多忙にならざるをえない現実がある。しかしそうした多忙さの中でも、私自身も含めて、もう少し患者さんに詳しく、ていねいに疾患や薬剤などについて説明しなければならないという印象もあった。

  質問事項の相談内容でカンジタことであるが、とくに疾患についての1)〜4)、さらに治療に関しての1)、4)などは、受診した病・医院で十分に説明されるべき事柄であろう。

  その他、私がホームぺージを通してしか知りえないいくつかの事例も経験できた。

  その1つは、イギリス在住の日本人女性からとても痒い湿疹あるいは蕁麻疹と思われる疾患で苦しんでいるという内容のメールが届いた。彼女は、イギリスの「かかりつけ医」(GP)に1カ月間通いやっと紹介状をもらったが、皮膚科専門医にみてもらうまでに3カ月以上待たされたことを切々と書いてよこした。皮肉にも皮膚科専門医を受診するころにはその痒みがなくなっていたという。その後の私からの質問に、イギリスではその病気の緊急度によって専門医に受診できる期間が異なり、皮膚疾患の多くは緊急度が低く、皮膚科専門医にみてもらうためには長く待たされることが普通であるという報告をいただいた。このように皮膚科へのフリーアクセスができなくなることで、患者にとっていかに不都合が生じうるか実証されたように思われる。わが国においても現在「かかりつけ医」制度が検討されているが、きわめて重要な問題を投げかけてくれる事実であると思われた。

  次に、ケミカル・ピーリングについて、その体験などを何度も詳しく教えてくれた若い女性がいた。彼女にとっては、自らの体験を通してニキビ後の瘢痕などにかなり有効な手段であると連絡してくれた。ケミカル・ピーリングは、アメリカなどではすでに一般的であると聞いている。さらに私が個人的に調べたNew Zealandではすべてのprivateな皮膚科医がcosmeticな領域をカバーしており、皮膚科医はgrowing fieldの仕事であるという返答を受け取った。日本においてもこれからcosmeticな領域を含めた新しい皮膚科の分野への挑戦・構築が望まれるかもしれない。それは、高齢社会を迎える中で、QOLを高める1つの重要な試みにもつながるものと考えられる。

  画像つきのメールが6件送られてきた。なおその画像の鮮明さに多少問題はあるが、同時に送付された病歴などから、診断することに関してはほとんど問題はなかった。今後は、皮膚科医同士、他科の医師あるいは患者さんとの画像を通しての連絡が診断や治療に関して有用な手段となりうると思われる。また、今後そうした試みは有用に利用されていかなければならない。

  以上のことなどから私たちは、ホームページの開設によって以下のメリットを体験できた。

 それらを列挙すると、

1) 幅広い情報網をもつことが可能である。新しい知見を得たり、画像を送ることなどで、患者・医師間で有益な情報交換の場となりうる。

2) 患者さんの素直な本音や疑問を知ることができ、さらに診療とは別な観点からの意見にも接することができる。

3) まったく無縁な遠方の国内・外からの医療事情などをリアルタイムで知ることができる。

4) 宣伝としての役割がある。さらに情報発信によって、皮膚科に関する正しい知識・理解を広め、啓蒙することが可能となる。

5)生の声を知ることで、スタッフの間で患者さんに対する認識が高まる。

  などであると思われた。

おわりに

  今や開かれた医療が叫ばれ、医療情報公開の必要性が認識されはじめている。そのために、インターネットが情報交換の媒体としてきわめて重要になっている。私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、今後こうしたホームページなどインターネットを利用した医療行為がますます重要になってくるであろうことを十分に理解しなければならない。

  ホームページの開設の煩雑さや内容の充実や更新、さらに質問に返答するというデメリットは厳然として存在するけれども、医師として考えさせられる事実や私たちが知りづらい情報を得ることができたことの意義はきわめて大きいと思われる。

  今回私は、アトピービジネスと対峙する目的で新しい免疫抑制剤軟膏の効果を私のホームページにあえて掲載した。すると患者さんから賛否両論の意見があった。こうしたことも皮膚科が生き残っていくために欠くことのできない大切な方法であると思ったからである。

  実際は、私のような小さな医院などではなく、皮膚科学会あるいは県単位で一般の人たちのために容易に検索可能な皮膚科に関するホームページの開設が考えられてもよいと思われる。もちろん一般の人たちが質問できることが可能であり、その道の専門家が答えるシステムなどが整えば、患者さんを含めてわれわれ一般皮膚科医にとってもきわめて有用なものとなるであろう。

  今でも私の医院のホームページでさえ、おおまかに1日80件ほどのアクセスがある。多いか少ないかは別にして、皮膚科に関する疑問・質問をもつ人たちは意外に多いように感じている。

  最近皮膚科の存亡の危機がいわれているが、皮膚科に関する正しいホームページの存在は、皮膚科の今後の在り方を示す1つの重要な手段ないし意義になるかもしれないと、今思っているところである。

追記:本年7月より日本皮膚科学会によって「アトピー相談メール」(委員長、竹原和彦金沢大学教授)のホームページが開設されました。まさに意を得たりという感があり、喜ばしいことです。


  今回の集計作業には、当院の安部みゆき、砂崎博美、吉田美由紀、儘田ゆかり、ことに矢野雅美が精力的に強力してくれた。ここに深謝する。