皮膚癌(ガン)について(1)−原因と症状−


前回「日光と皮膚の老化」の中で、紫外線は皮膚の発癌を誘発することがあると、お話ししました。
今回は、その皮膚癌について、更に、少し詳しくお話ししたいと思います。
Q:腫瘍(しゅよう)という言葉を聞きますが、腫瘍と癌とは違うのですか?

患者さんの中には、腫瘍というと言葉を聞いただけでびっくりしてしまう方 がいます。腫瘍は癌であると勘違いしているからです。 腫瘍は、簡単に言えば身体の細胞、あるいは組織が勝手に増殖したものを 指して言っています。その中でも、生命には影響のない良性の腫瘍と悪性の 腫瘍があります。 悪性の腫瘍は、放っておくと、どんどん増殖し、周囲の組織を破壊し、さら に転移し、最悪の場合には死に至らしめるものもあります。 癌は、この悪性の腫瘍を指して言っています。皮膚に出来る腫瘍の大部分は 良性の腫瘍ですから、腫瘍が出来たからといって心配する必要はありません。 例えば、ホクロなども立派な良性の腫瘍なのです。

Q:皮膚癌は、高齢になるほど発生しやすいと聞きましたが、本当ですか?

本当です。勿論、ほかの内臓などの癌も高齢になるほど発生しやすくなりま すので、皮膚癌の場合も同様です。 これは、最近の研究で、遺伝的に規定されているためと解ってきました。 つまり、老化と癌化とは、遺伝子レベルで深く関連しているのです。皮膚の 場合には、その構造上もっとも外側にありますので、前回お話ししました ように紫外線などの外界の影響なども、重要なファクター(要因)になって きます。 また、紫外線のほかに、放射線の照射や化学物質の砒素あるいはウイルス なども皮膚の発癌に作用することが解ってきました。こうした発癌の原因 となるいろいろなものを発癌因子と呼んでいます。 皮膚癌の場合とは直接関係はありませんが、喫煙も代表的な発癌因子の一つ です。つまり、長い間には、発癌因子によって、高齢になるほど皮膚癌が 生じやすくなるということです。

Q:癌前駆症という言葉を聞いたことがあります。どんな状態なの でしょうか?

簡単に言ってしまうと、癌に変わりやすい、あるいは、悪性化の初期病変と 考えて良いでしょう。代表的なものに、日光角化症という病気があります。 高齢になってくると、日光の当たりやすい部位、すなわち顔面、頭部や手背 にカサカサになりやや赤みがかった皮膚の病変が生じて来る人がいます。 高齢者の顔に良く見られるシミに、もう少し赤みが加わって、多少厚ぼった く触れる状態と考えると、理解しやすいと思います。この状態を放っておき ますと、高い率で皮膚癌が生じてきます。そのために、癌前駆症と呼ばれて います。 この日光角化症は、何度も言いますように、長期間の紫外線照射による 皮膚障害の結果生じて来ることが解ってきました。 その他やけどの後が、瘢痕性になっている状態や治療などで放射線を照射し た部位、あるいは白板症と言って、口腔内や外陰部などの粘膜や粘膜と皮膚 移行部に生ずる白色病変なども代表的な癌前駆症とされています。

Q:それでは、代表的な皮膚癌にはどんなものが、あるのですか?

皮膚癌で、もっとも代表的なものは、有棘細胞癌と呼ばれるものです。 図で示すように、表皮の構造の中で、有棘層の細胞が癌化したものなのです。 有棘細胞癌の発生母地としては、先程の火傷の瘢痕や放射線による皮膚炎、 あるいは日光角化症といった癌前駆症の皮膚病変に生ずることが多いとされ ています。次いで、表皮の基底細胞より生ずる腫瘍があり、基底細胞上皮腫 と呼ばれています。ただし、この腫瘍は転移することは極めて稀で、厳密に は癌とは言えません。 メラノサイト(色素産生細胞)から生ずる悪性黒色腫は、極めて悪性度の高い 腫瘍の一つで、最近増加傾向にあり問題になっています。ホクロの癌と言えば 知っている方も多いと思います。その他、いろいろな皮膚癌がありますが、 専門的になりますので、今回は、この程度にしておきましょう。

Q:さらに、お尋ねしますが、皮膚癌かどうか見分けるにはどうしたら 良いのでしょうか?

大変難しい質問ですね。初期の皮膚癌では、専門の皮膚科医でも見逃して しまう事が時にはあります。 しかし、とても大切なことですが、皮膚に出来た腫瘍は、誰でも何時でも 目で見ることが出来るということです。 皮膚の病気・・・・・腫瘍に気づいた時には、以下のことを念頭において 観察してみてください。 @急速に大きくなって来てはいないか。平面的な大きさばかりでなく、 厚さや高さもよく見る。 A色調が変わって来ていないか。黒く、または、赤くなるとか。 B表面が変化して来ていないか。表面が汚くなったり、潰瘍(かいよう)化 してきたり出血しやすい。 C腫瘍の辺縁がぎざぎざに不整になってきたり、あるいは滲み出てくるような 状態となっていないか。 なお、言い足りない部分はありますが、とにかく、皮膚に生じた腫瘍に以上の ような変化がありましたら、速やかに皮膚科専門医に受診してください。 皮膚科医が診察して、おかしいと思った場合には、その腫瘍の一部あるいは 全部をとって調べます。これを皮膚生検といいます。これは、皮膚癌の検査 にはとても大切な検査です。もし、異常が見つかった場合には、速やかに 適当な治療をしなければなりません。 次回は、最近、注目されている悪性黒色腫を中心にして、もう少し皮膚癌の お話を続けたいと思います。

皮膚の構造