皮膚癌(ガン)について(2)−悪性黒色腫とパジエツト病−


前回は、腫瘍と癌の違い、癌前駆症や皮膚癌の種類、そして、どんな時に皮膚癌の注意をした
ら良いかなどについてお話しました。今回は、やや専門的になりますが、いくつかの皮膚癌に
ついて、もう少し詳しくお話したいと思います。


Q:悪性黒色腫というこわい皮膚癌があると聞きましたが、本当ですか?

皆さんが、よくホクロの癌と言っているものです。別名メラノーマとも言い
ます。黒い色調を持った皮膚癌の代表的なものです。
ですから、悪性黒色腫と呼ばれています。皮膚癌の中では死亡率が高く、と
ても恐ろしい癌の一つです。人種的にアメリカ人などの白人に多いとされて
きましたが、最近では日本でも急速に増えており、問題となっています。
前回にも、お話しましたように、表皮などに存在するメラノサイト(色素産
生細胞)から生じた悪性腫瘍です。
多くの癌は、高齢になるほど多くなるといった「癌年齢」がありますが、この
悪性黒色腫は原則的には癌年齢がなく、各年代であまり差がなく発生すると
されています。
専門的になりますが、現在、臨床症状の違いによって4型に分けられていま
す。
(1)結節状悪性黒色腫
    黒色の腫瘍からなり、しばしば、糜爛(びらん)や潰瘍を形成してきま
    す。
(2)悪性黒子由来悪性黒色腫
(3)表在性悪性黒色腫
    結節状のものと異なり、濃淡が不整の黒褐色の局面が、徐々に拡大して
    くるものです。
(4)末端黒子様黒色腫
    これらの中では、(1)の結節状悪性黒色腫が最も予後が悪い病型とさ
    れています。   



Q:高齢者の顔面のシミは黒いことが多いようですが、悪性黒色腫になること
があるのでしょうか?

よくお年寄りの顔に黒いシミを見ますが、おっしゃるとおり時には悪性黒色
腫になることがあります。
これが、前述の悪性黒色腫の4型のうちの(2)悪性黒子由来悪性黒色腫と
呼ばれているものなのです。ただし、頻度として、それほど多くある皮膚癌
ではありませんから、顔に沢山シミがあるからといって特に心配する必要は
ありません。
鏡をのぞいた時に、顔のシミを良く見て下さい。もし、辺縁がきれいに境さ
れていなく不規則になっていて、表面の色調の濃淡が不整になっているよう
でしたら、念のために皮膚科の専門医に診てもらうと良いでしょう。この悪
いシミは、徐々にですが、拡大していきます。
原因として、日光と皮膚の項でも述べましたが、日光に含まれている紫外線
によって表皮のメラノサイトが影響を受けて悪性化したものと考えられてい
ます。いかに紫外線が皮膚に悪いか、これでもお解かりになると思います。
この高齢者のシミから生ずる悪性黒色腫は、他の3型に比べて予後は一番良
好とされています。




Q:足底に、黒いあざがあると悪性黒色腫になりやすいと聞きましたが、本当
ですか?

日本では、この型の悪性黒色腫が圧倒的に多いとされています。これが、悪
性黒色腫の分類の中の(4)末端悪性黒色腫と呼ばれるものなのです。この
型は、足底ばかりでなく、爪甲下、粘膜も含まれます。国立ガンセンター皮
膚科の石原和之先生の統計では、日本における足底の悪性黒色腫の発生頻度
は、その他の部位の15.3倍もあると報告されています。従って、足底の黒子
・黒あざを予め除去するようにすれば、悪性黒色腫の発生数を極めて少なく
することが出来ると述べておられます。
下の写真で示しましたように、足底にもし黒いあざがありましたら、一度は
診てもらったほうが良いでしょう。ただし、足底に黒いあざがあったからと
いって、必ずしも悪性黒色腫になるのではありませんから、間違わないで下
さい。頻度としてはとても少ないものなのです。


Q:高齢者にパジェット病という皮膚ガンがあると聞きました。それはどのよ
うなものですか?

パジェット病は、女性の乳房にできる乳房パジェット病とそれ以外の部位に生
じる乳房外パジェット病の2種類に分けられています。今回の質問は、乳房外
パジェット病のことを指していると思われます。比較的男性に多いのですが、
高齢者の外陰部に発生することが多く、ごく稀には肛囲、腋窩にも認められる
こともあります。そういった部位に、境界が明瞭な紅斑あるいはびらんがあり、
一見すると、いわゆる湿疹様の皮膚病変として認められる状態です。
しかし、湿疹の治療をしても、なかなか治らず徐々に拡大していく皮膚癌です。
もちろん、自覚症状はありません。この病変部をとって調べてみますと、皮膚
の表皮というごく狭い部分にのみ、悪性の細胞(パジェット細胞)が認められ
るものです。こうした状態を専門的には、表皮内癌と呼んでおり、皮膚癌の中
でも最も軽い状態の癌とも言えます。極めてゆっくりと、数年以上かけて進行
してゆくのが普通です。ですから、外陰部に湿疹様の病変があって、なかなか
治らない場合は、恥ずかしがらずに、診てもらう必要があります。最も軽い皮
膚癌で、いくらゆっくり進行すると言っても、長く放置しておくと、やはり癌
細胞の転移を引き起こし、手に負えなくなります。その他に参考までに、表皮
内癌として、ボーエン病という皮膚癌もあります。
前回に、癌前駆症という状態をお話しましたが、癌前駆症はそれ自体かなり高
い頻度をもって、将来癌に移行する可能性のあるものです。それに対して表皮
内癌は、軽度でもあくまでも癌であることを理解して下さい。


Q:いろいろな皮膚癌についてお聞きしましたが、現在、治療に関しては
どんな処置をされていますか?

皮膚癌のほとんどは自覚症状がありません。ですから、放っておけば癌細胞の
転移を引き起こし、大変なことになります。
しかし、前にもお話しましたように、ここが大切なのですが・・・・皮膚は、誰に
でも目で見ることが出来ます。今までの話を参考にして、皮膚に腫瘍が出来て
少しでもおかしいと思ったら、とにかく専門医に診てもらうことが先決です。
早期に発見できれば、悪性黒色腫のようにとても恐ろしい皮膚癌でも完治可能
です。
皮膚癌の治療の原則は、皮膚癌を切除することです。主に外科的な切除が基本
となります。そして、それぞれの皮膚癌に応じて、現在はしっかりした方法が
確立されていますから、然るべき医療施設で安心して治療を受けて下さい。
最近は皮膚の外科の進歩とあいまって、傷も目立たなく出来るようになってき
ました。
次回は、救急を要する皮膚疾患についてお話しましょう。