皮膚のやけどについて


あまり縁がないと思われる皮膚科でも救急を要する疾患がいくつかあります。
その中の一つとして、「やけど」は代表的な疾患です。
今回は「やけど」にスポットを当ててみましょう。


Q:私の孫が、熱湯で右手に「やけど」をして泣いています。どうしたら
良いでしょうか?

暖房器具、ポットのお湯など、私たちの周りには「やけど」の原因があふれて
おり、いつも「やけど」の危険にさらされているといっても過言ではありませ
ん。ですから、「やけど」をしたらどうすれば良いかを知っていることは、と
ても大切なことだと思います。まず、もっとも大切なことは、とにかく、冷静
になることです。一部の人は、あわてて、応急手当もせずに直ぐに、病院に電
話をしてきたり、そのまま病院まで駆け込んで来る方もいます。そのために軽
い「やけど」が、思ったより重症になることもないとは言えません。今回のよ
うにポットの熱湯などで軽い「やけど」をした場合は、とにかく直ぐ流水など
で冷やすことが先決です。衣類等に熱湯がかかっていたら、その衣類を冷やし
ながら手早く脱がせるか、場合によっては衣類をハサミなどで切り取ってしま
っても良いでしょう。「やけど」をしたら患部を冷やすということを知ってお
られる方は多いのですが、どうも、その冷やす時間が意外と少ないようです。
冷やす時間は、やや長目の方が良いようです。
具体的には、30分以上痛みがとれるくらい冷やすことをお薦めします。
そして、その間に「やけど」の部位、広さ(範囲)、深さなどを確認して、病院
に電話をするなり、受診されたらいかがでしょう。ただし、今までのお話は、
あくまでも皆さんが判断できる程度の簡単な「やけど」の場合です。

Q:「やけど」をしたらアロエが効くとよく聞きますが?

「やけど」をしたあと、すぐアロエや調味料のお味噌、馬油などを付けて受診
される方がいます。アロエはその厚い葉で患部を冷やす作用があると思われま
すので、全く無用とは言えません。しかし、何よりも流水や氷などで、直ぐに
冷やした方がすっと効果的です。昔からの方法は、それなりに多少の意味はあ
りますが、「やけど」はとにかく早目に冷やして下さい。冷やすということは、
一つには熱を取ること、もう一つは炎症を抑えるという意味があります。お味
噌でも一時的に冷やせますが、お味噌が皮膚にへばりついて、その後の処置が
とても大変ですので、あまりお薦め出来ません。


Q:それでは「やけど」の部位ではどのような注意が必要ですか?

顔面や外陰部の「やけど」は、他の部位の同程度の「やけど」に比べて重症に
なりやすいようです。また、ガス爆発などで、高温の蒸気を吸入した場合は、
重篤になりやすいので、これらの場合は直ぐに受診させて下さい。手足・四肢
の関節部での「やけど」は、後にひきつれなどを起こす場合がありますので、
正しい治療が必要です。

Q:「やけど」の広さが簡単にわかると助かるのですが?

「やけど」の広さは、図1に示すように、九の法則がありますから、知ってい
るととても、図から解かりますように、参考になるでしょう。例えば、成人の
場合、右上肢全体が「やけど」をした場合、図から解かりますように、その受
傷面積が10%前後と簡単に算定出来るわけです。ただし、小児や乳幼児の場
合は、図に示されるように、成人に比して頭部が大きく、下肢は小さいので多
少の修正(五の法則)を要します。 

Q:「やけど」の深さに関して、どう判断したら良いのでしょうか?

図2のように「やけど」の深さによってT度からV度まで分けられています。
「やけど」の深さはどの位の熱さのものが、どの程度の時間接触していたか
で決まります。
一番浅いT度では、「やけど」をした部位に発赤と痛みを伴う程度です。U度
になると、強い痛みとともに、発赤、浮腫を生じ、その後、水疱となります。
このU度の「やけど」は最近では浅層U度と深層U度に分けられています。
浅層U度の「やけど」はおおよそ2週間程で治ります。深層U度の「やけど」
は一カ月程かかり、あとが残ります。V度になると、受傷時は白っぽく乾燥し
た状態で、あまり痛みはありません。しばらくすると、その部は壊死におちい
り、深い潰瘍を形成してきます。以上の「やけど」の深さの判断は、実は早期
では難しいことが多く、受傷後2日から2週間位ではっきりしてきます。

Q:「やけど」でショックを起こしたりして、重症になりやすい場合を教えて
下さい?

今まで述べた「やけど」の部位、広さ、深さで「やけど」のひどさ(重症度)
が決まります。その重症度の判定に最も大切なのは、「やけど」の広さ(範囲)
と深さだと言われています。表1に「やけど」の重症度の簡単な目安を示して
おきました。入院が必要な「やけど」は、中等度以上の「やけど」で、常に、
ショックを起こす危険性があると言われています。特に小児の場合は、U度で
5〜7%以上のやけどでも入院させた方が無難とされています。さらに、お年
寄りの場合も同様に考えて良いと思われます。重症なやけどの場合は、迅速に
救急処置を行わないと、ショックなどを起こして死亡することがあります。

Q:その他「やけど」で注意することがありますか?

冬期、寒くなりますと、湯タンポなどで長時間接触していて、第V度の「やけ
ど」を生じることがあります。これを低温熱傷と言っています。今でも時々見
かけますが、下肢に深い潰瘍を形成し、なかなか治りません。電気アンカや湯
タンポを使用する時には気をつけて下さい。また、夏には日焼けによる「やけ
ど」が多くなります。今年のように猛暑では、ほんの少しと思っていても、直
ぐに日焼けが「やけど」の状態になってしまいます。お年寄りの方は、同時に
日射病にもなりやすいですから、炎天下での行動には充分注意して下さい。

以上「やけど」について述べましたが「やけど」は実はほとんどの場合、予防
出来る病気の一つなのです。熱湯の入ったポットの置場所や花火の遊び方、
暖房の方法などに注意することで、いくらでも予防できる場合が多いのです。
特にお年寄りの方は、動作が鈍くなってきたり、熱さを感じにくくなってきて
いますから、なおさら、注意して頂かなくてはなりません。反対に最初の質問
のように、お孫さんが「軽いやけど」をした時などは、最も冷静に対処してあ
げられる重要な立場にいるのが、お年寄りの方かも知れません。