暑さは、私たちの生体活動に大きく影響を与える物理的な因子の一つです。 具体的には、暑さは温度という数値で表すことが出来ます。人間が快適に 暮らせる温度(最適環境温度)は、一般に室内の場合では夏が23度付近 で、冬は18度付近とされています。それをはるかに越える高温環境下で 労働や運動をすると、いろいろな健康障害を起こしてきます。例えば、製 鉄、造船、ガラス、陶器などの労働は高温環境下での労働です。炎天下の なかでゴルフやテニスをすることも同様に高温環境下での運動です。そう した高温環境下で発生する健康障害を総称して熱中症(俗称:ねつあたり) と呼んでいます。熱中症は、高温環境下で体内の熱放散が制限され体温の 調節が破綻したり、大量の発汗のため、体液や電解質のバランスが崩れる ために起こってきます。その原因の違いや重症度により熱痙攣、熱疲労、 熱射病などの症状が知られています。 熱痙攣(ねつけいれん):高温環境下で発汗が大量に起こると、血液から 急激に水分と塩分が失われて、四肢や躯幹の筋肉にいたみを伴う痙攣が起 こってくる状態です。痙攣とともに、頭痛、めまい、吐き気が生じ、脈拍 が多くなってきますが、体温、血圧には著しい変化はありません。 熱疲労(ねつひろう):高温環境下で体温の調節機能の失調が起こるため、 体温が上昇し、頭痛、めまい、耳鳴り、場合によっては意識障害を起こし てくる状態です。体内の水分が欠乏する場合と塩分が欠乏する場合とがあ るとされています。 熱射病(ねっしゃびょう):熱中症のなかでも最も重症な状態です。炎天 下で熱射病にかかった場合には、一般的には日射病とも呼ばれています。 高温下で突然に発症してきます。 熱疲労と同様に、体内に熱がたまり、体温調節機能が失調するため起こ ります。頭痛、吐き気、嘔吐があり、体温が40度にも達する高熱を出し、 うとうと眠ったようになり、ひどい場合には意識が無くなってしまいます。 発汗していないことが重要な特徴です。 対策(治療)と予防 :すぐに涼しいところに移して、衣服をゆるめて、 風通しをよくして、できるだけ早くからだを冷やします。できれば、冷た い水にぬらしたタオルや布を当てて全身を冷やしながら、扇風機などで風 を送るとよいでしょう。それが出来ない時には、衣類などを使って、あお いで風をおくります。体温が下がり意識が戻ったら、冷たい飲み物を飲ま せます。発汗が多い時には、薄い食塩水(コップ1杯の水に食塩2つまみ 程度をまぜる)か、スポーツドリンクを飲ませるとよいでしょう。目が覚 めても、またすぐに眠るようなら重体です。呼吸がない場合には、すぐに 人工呼吸をしなければなりません。また点滴などでの補液も必要になって きます。そんな時には出来るだけ早く全身管理ができる医療施設に転送す る必要があります。 いずれにしても、高温環境下では無理な運動や作業を避けて、水分を充分 に補給することが大切なことであり、そうした注意で熱中症はある程度予 防できます。それとともに、気温、湿度、気流、輻射熱などの温度条件の 緩和、労働や運動時間の調節などによる労働・運動条件の合理化に注意す ることも大切なことです。 慢性熱中症 :慢性の暑熱性障害(慢性熱中症)も知られています。いわ ゆる「夏バテ」と呼ばれるものです。疲れやすくなったり、胃腸障害ある いは自律神経不安定などの症状を起こしてきます。 予防対策としては、夏期の暑い時期での労働日数・労働時間を少なくし たり、食生活の改善、特にビタミンB1補給、高質蛋白質の補給や休養・ 睡眠に十分注意することが大切になってきます。 < 健康づくり百科より (財)群馬健康医学振興会編 >