ちょっとしたイベント
夫は毎日欠かさず晩酌にビール小瓶1本を飲む。それ以上でも以下
でもなくきっちり毎晩判で押したように小瓶1本である。量も少ないので
酔うには至らないから奇行もしないし、やたら饒舌になるわけでもなく
極めて慎ましやかな習慣なので、私も納得している。
ある暑い夏の宵、彼はふとビールを少し凍らせたら冷たさが倍増して
ずっと気持ちよくなるのでは無いかと考え、食前に瓶を冷凍庫にしまい
込んだ。30分ほど経ってからビールを出してきてふたを開けると泡が
出始め、ものの2−3秒でその泡が凍り始めた。急いでビアマグに注ぐと
表面に出来た泡が後から後からモコモコと凍りはじめ、まるで気泡の
シャーベットのようになった。まだ液体部分と凍った泡を一緒に飲んで
「うまいぞお」と一言、ご満悦。以来、彼は夏でも冬でも、自宅でビールを
飲むときは欠かさず凍らせている。
先日、知人一家を色地味招いた折、何かの拍子に凍らせたビールの
話しが出た。彼の家族は揃ってのんべいだがまだ誰も凍らせたビールは
経験したことが無いという。是非試してみたいと言うことになり急遽冷凍庫に
入れた。大瓶や缶ビールに関しては分からないが、小瓶の場合30分から
40分が最適時間だとの夫の言に従い、35分でテーブルへ。この状態だと
まだ中のビールは凍りついていないので瓶を傾けると液面はゆれ動く。
栓を抜いてマグに注ぐとシュワシュワ微かな音を立てながら見ているうちに
泡が凍り始め、拍手が起こった。皆それぞれスプーンを持って一つのビア
マグの回りに集り、凍った泡をなめることひとしきり。「面白い」、「普通の
ビールよりおいしい」と言いながらぺちゃぺちゃ。何故注いでいるうちに泡が
シャーベット状になるのか、皆、酔った頭をひねって考えていた。「アルコール
だから」、「発泡性飲料だから」 、「急に暖かい空気に触れたから」などと意見
百出だが、物理学的な本当の理由には行き着くことはできなかった。凍った
部分がすっかり無くなり、残った液体部分を回し飲みした結論は「やや、気の
抜けたビールだ」、「美味しくない」 と言うことになった。
このイベント、美味しい・不味いは別にして半分酔った大人には大うけだった。
大人だけのホームパーティの余興にはなかなかの見せものかもしれない。
興味を持たれた方は一度お試しを。
しかし、誰だったか著書は忘れたが『凍ったビールなど最悪だ』と書いて
いるのを読んだ覚えがある。と言うことは、この著書だって凍らせたビールを
飲んだことがあるに違いない。