年末年始の連続休暇は今回もスキーに明け暮れした。これは私の年間行事の中で
最大の贅沢、至福の時なのである。多少の洗濯はするが、その他掃除、炊事など一切
の家事をしなくても良いということは大袈裟に言えば「これに勝る喜びは無い」ので
ある。家事の中で食事の支度は好きな方なのだが、なんと言ってもプロの手で作られ
た食事を供されることは最高である。とにかく1週間ものあいだ自分の手を汚さずに
3度3度美味しいお食事が戴けることは本当に素晴らしい。
勿論、スキーに行っているのだから天候不良で無い限り午前も午後もゲレンデへ滑り
に出ている。ゴンドラで一気に山頂まで上がるのも良いけれど、何故か私はあまり高速
でないリフトで上がるのが好きである。ゲレンデもリフトも人工的な施設ではあるが、
少なくとも周囲は雪に覆われた大自然に囲まれているという気分に浸れるから良い。
贅沢を言わせてもらうなら、極端に寒くなくて、雪が止んでいる限りリフトはゆっくり
動くのが望ましい。雪に覆われたすぐ目の前や、遠くに見える山々を眺めるのにスピー
ドは無用だからである。雪の降った翌日は針葉樹の木々が綿帽子を被ってまるでクリス
マスツリーの見本市のようだし、晴天の午前中は日ざしの中で煌くダイアモンドダスト
に目を奪われる。
下に目を向けると、コース以外のところは全く静かで別世界の感がある。降っていた雪
が夜のうちに止むとそこかしこに動物の足跡が見られる。大小様々あり、木の根元から根
元へと走り回った跡、辺りを一周して元へ戻ったもの、崖下へ飛び下りる前に一瞬躊躇した
ような足踏みの跡を見つけるとほのぼのとした気分になる。動物だってちょっとした高さか
ら飛び下りる時は恐いのかしらと考える。雪庇の端ギリギリのところをまっすぐ落ちないよ
うに器用に歩いた跡もある、よほど体重の軽い動物だろうか。ノネズミの足跡は小さくて
浅いのでちょっと風が吹くとすぐに雪で消されてしまうのでなかなか見つけにくい。足跡を
見てウサギ、キツネそれともテンかしらと動物の種類を推しはかったり、進行方向はどちらか
と考えているうちにもう山頂。もっと乗っていたい気がする。
寒さで出来た樹氷もきれいだが、面白い格好の木や岩などを探して命名するのにも熱中して
いる。下の方からてっぺん近くまで蔦でぐるぐる巻になった《がんじがらめの木》、笹が1
メートル四方ほどの所に密生している《雀のおやど》、小さな岩が雪に覆われた《白いピラ
ミッド》、上の方の枝が全部紅葉したように紅く染まっている《マニキュアいたします》など
が今年の私の命名作品である。
夫が言った『君はリフト・ウオッチングしたくてスキーをしているのかい?』