9月に入りそろそろ涼しい風も吹きはじめ、夏も終わりに近づいてきた日曜日、
今の内に雑草を抜いて来年に備えようと庭へ出た。狭い庭だが雑草は容赦なく生えて
くるので庭いじりが不得手な私にとっては結構煩わしいことで気の進まないことなの
だ。その日は暖かくて日向にいるとうっすら汗ばむくらいの良い天気だった。白い小
さな蝶が一頭庭を飛んでいた。蝶の季節もそろそろ終わりだけれどこれから涼しくな
ったらどうするのかしらとぼんやり眺めていた。しばらく私の周りをひらひらしてい
たが突然私の手の甲に止まった。草や木の葉が直ぐ近くにあるのに何故私の手に止ま
るのかと不思議だった。暖かい日なので暖を求めて止まったわけでもないがとにかく
きれいな蝶が私に止まってくれたのが嬉しかった。草を抜く手を休めてなるべく動か
さないようにじっと見守った。蝶は手の甲の上でもじもじと歩き回ってみたり、そっ
と羽を広げたり閉じたりして1分ほど滞在したのち飛び立っていった。
その季節にしては暖かい日だったので蝶が飛び回っていることはそれほど珍しい訳
ではないがどうして私の手に止まったのかと不思議だった。そういえばこの夏、例年
通り家族と野尻湖で夏休みを過ごし、これまた例年通り戸隠森林植物園へ出かけたとき
にも小さな蝶が同じように私の手に止まったことがあった。あの時は小一時間も歩いて
ひと休みしたくなり、小道の傍らのベンチで小休止をとることにした。そばの潅木の中
でひらひらしていた一頭の蝶が私たちのそばへ近づいてきたと思ったら、いきなり膝の
上に置いていた私の手の甲に止まったのだ。このときの蝶は茶色っぽい地味な色で羽に
円のような模様のある小さな蝶だった。蝶が私にとまるなどということは滅多にない経
験なので「蝶が止まったの、早く記念写真を撮って、撮って」と慌てて小声で夫をせか
した。蝶は手の上を歩き回ったり、羽を開いたり閉じたり、嘴で突いたりしてしばらく
乗っていた。むずむずこそばゆいような可愛らしくて撫でてみたいような気がした。暫
くして飛び立ち、少し私達の周りを飛び回ってから潅木の中へ入ってしまった。家族の
中でなぜ私が蝶に選ばれたのか解らないが嬉しい経験だった。もちろん記念写真はばっちり
可愛らしく撮れていた。
蝶の種類は違うがひと夏に2度も私の手に蝶が止まったのは初めてのことだた。この
2つの出来事には何か訳があるのだろうか。共通点は2度とも顔と手にサンカットクリー
ムを塗っていたことぐらいである。使用していたクリームは無香料だから香りに引き付け
られてきたのでは無いだろう。森林植物園の蝶は嘴で突くような格好をしていたから、も
しかするとクリームの味が蝶の好みで気に入ったのか。とにかく蝶は謎を残したまま秋が
深まってきた。