「異本病草紙」考−その7

      高崎市医師会  服部 瑛
      国立京都病院  荻野篤彦



24)熱があって臥せている女(図24)



 老女が病人の額に手をあてて熱をみている
と思われる。病人の側には夫らしき男が心配
そうに見守っている。服装などから考えて、
男は医師などではないようである。枕元には
団子のような薬とおぼしきものが置かれてい
る。悪寒を伴う高熱を発しているようにもみ
える。医師などがいないことから、感冒など
で寝込んでいるのであろう。
 なお当時、病気で臥せることを「おえ臥せ
り」と言った。



25)背中に瘤のある女(図25)



 背中に大きな瘤(こぶ)を生じた女と二人
の男が描かれている。法衣の男は医師か薬師
(くすし)などであろう。瘤を触診している
絵図と思われる。
 背中の大きな瘤は、脂肪腫であろうか。佝
僂病や脊椎カリエスなども考えられる。

26)麻疹にかかった幼児を看病する女達(
図26)



 全身に発疹が生じている裸体の童子を、尼
風の老女を含む女たちが介抱している場面と
思われる。体を冷やさないように火鉢で部屋
を暖めている。この採暖の絵図はよく認めら
れる。当時悪寒などがあった場合、すぐに採
暖したのであろう。
 成人にあまり影響のない疾患とすると、麻
疹がもっとも考えやすい。麻疹は、当時「あ
かもがさ」と言われた。いわゆる「はしか」
のことである。



27)老女より「おまじない」をうける幼児
(図27)



 女に抱きかかえられた幼い男児の腹部に、
尼風の老女が何やら書き込んでいる。まじな
いであろうか。
 幼児には特に疾患を示す特徴は身受けられ
ない。癇の虫封じなどであろうか。あるいは
麻疹などの病気予防のためのおまじないとし
て、当時幼児の腹部に筆で字を書いてもらう
習わしでもあったのであろうか。その際、経
文や真言を書くことが普通であったという。
 この老婆は、白頭巾をしているから、出家
した女であると思われる。



28)背部に灸(やいと)を受ける女(図2
8)



 背中に腫瘤のある女と、その背後で炭をた
いて火箸を焼いている男女が描かれている。
 上背部のでこぼこした腫瘤は、おそらく癌
と思われる。この場合は非常に熱い灸、即ち
焼灼療法を示しているのであろう。きわめて
苦痛を伴う治療であったと思われる。
 この絵巻物では、こうしたその当時の治療
の一端がいくつか描かれており、興味深い。